子宮頸がん予防ワクチン「サーバリックス」
1月から子宮頸がんの予防ワクチン「サーバリックス」の接種が可能となり、質問を受ける機会が増えてきました。がんのワクチン、みたいに思っている方が多いので説明をしてみたいと思います。
実際のところは癌のワクチン(細胞ががんになるのを防ぐ?)ではありません。そんなものが実際に出来たらノーベル賞ものです(ちなみにヒトパピローマウイルスを発見した方もノーベル賞をもらっていましたが)。ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスに対するワクチンなのです。
HPVは性行為で感染しますが、90%の人は自分の持つ免疫力で治ってしまいます。残りの10%の人が持続感染という状態になり、持続的にウイルスの影響を受けた細胞が数年以上かかって徐々に癌化する、という子宮頸がんの発生のしくみがわかってきたのです(ウイルスの関係ない腺癌という特殊な子宮頸がんもありますが、ごくわずかです)。
そこでHPVワクチンの役割ですが、免疫力をつけることでウイルスそのものに感染しないようにしようと言うもので、3回接種後、理論上は抵抗力は20年は持続すると言われています。HPVにはいろんなタイプのものがあり100種類くらいに細かく分類されているのですが、癌をおこしやすいタイプのウイルスは16型・18型・31型・45型・52型・58型などと言われており、尖圭(せんけい)コンジローマというイボをつくりやすい6型・11型などとは区別され、ハイリスクタイプのHPVと言われています。
今回のサーバリックスというワクチンは16型・18型だけを予防するものなので、その他の型のウイルスの予防はできませんが、それでも子宮頸がんのうちの60%~70%くらいが予防可能とされています。
感染はセックスでおこりますので、小学生や中学生などのセックス経験がまだない時代にうつ方が妥当という考え方もあり、自治体によっては導入というところもあるようです。外国ではオーストラリアなどの先進国では、国の予算で12歳時に全員接種となっているところもあります。日本でも本当に普及させてワクチンの恩恵を受けるためには、国の政策として導入してもらった方がいいような気がします。
というのも、価格のこともありますが、ワクチンについて質問して来られる方の大多数が主婦層の方で、すでに性的にアクティブな時代を過ぎている(こういう言い方は失礼かもしれませんが、新しいパートナーとの交渉がありうる、という意味です)方が多いので、「ご主人が外で新しくもらって来ない限り新たな感染はおこりません」と説明すると、大概の方はうたずに帰って行かれるのです。
いくら日本が進んだ、離婚も増えている、と言ってもやはり外国とは違いますし、やはり未婚の方でこれからいろんな相手と性交渉の可能性がある、という世代が一番恩恵にあずかりやすいので、最近ではピルの方や、癌検診に来られた20代の方におもに説明するようにして知識の普及に努めています。
個人の性的なことをあけすけに話す習慣のない日本では、今質問して来られる30代の方のお子さんたちが10代後半になる、あと10年くらいは、このワクチンの普及にはかかりそうですが、気長に、説明を続けていきたいと思っています。ちなみに、他人様にうつものは何でも自分で試してみたい私も、サーバリックスではありませんが、輸入のガーダシルというHPVワクチン(こちらも来年か今年の末に日本で発売されそうですが)を自分にうってみました。筋肉注射なので痛いのは当然ですが、特に副作用などもありませんでした。
もちろん、これから夫を見限って熟年離婚をして、第2の人生の花を咲かすのよ、という方には接種をおすすめいたしますので、遠慮なくご相談ください(しかし、本当はこういうふうに茶化すのが一番いけないのです)。
HPVもHIVと同じで、ただ一人の人との性交でも、たまたま相手がもっていたら感染はしうるものですので、偏見との戦いも必要ですね(まあ、ワクチンうつなんてあそこのお嬢さんお盛んね・・・、みたいなスタンスが一番いけません)。もちろんコンドームにもある程度の予防効果はありますので、あわせて付け加えておきます。
とにかく、いろんなことをオープンに語れる産婦人科医でありたいと思っております(こういう話は女医さんがいいのよ、という声も聞こえてきそうですが・・・)ので、とりあえずご質問はお気軽にどうぞ。