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妊婦と放射線被曝

[2011.03.26]

私の手元に、研修医の頃から愛用している、「新版・妊婦の薬と管理ハンドブック」という小さな本があります。

この本を片手に、妊娠初期にレントゲンを撮ってしまったので中絶すべきかどうか、という相談に何度のって来たことかと思い返してみました。長い不妊の末にできたのだが、その妊娠に気付いたのは腹部のCTを撮った時にわかったから、という方もありました。放射線の単位はradという古いものからGyという単位に変わっており、本を片手に計算しては、大丈夫ということを強調してお産にこぎつけたものでした。CTでも被曝量は0.25mSVくらいなのです。
基本的には、1rad=10mGy=10mSV と考えていいですので、当院でよく行う子宮卵管造影検査での卵巣被曝線量は、だいたい2.1mSV、ということになります。福島の作業員の方の被曝量200mSVは約100倍ですので、1日で卵管造影を100回受けたくらい放射線を浴びたことになります。そうするとこれは相当な量なのだな
とわかるはずです。

さて、妊娠中に放射線被曝すると、時期によってさまざまな影響が出ます。
受精から妊娠が判明するまでの時期だと、50mSV以上の被曝で流産します(これはもちろん妊娠反応が出る前なので流産かわかりませんが)。
妊娠4から8週だと、50mSV以上の被曝で奇形が発生します。小頭症や網膜変性、白内障、骨格や性器の異常などです。
8週以降だと、100mSVで発達障害、200mSVで精神発達遅滞が生じます。
また全期間を通じて線量に応じて、胎児が出生後、癌になる確率が上がります。1mSVの被曝だと出生後癌になる確率は0.01%(1万分の1)です。10mSVだと0.1%(1000分の1)ですから相当高くなります。
ただ、この数値を見て考えて頂きたいのは福島に住んでいる人でも原発で作業している人でもない限り、そんなには容易に被曝しないであろう、というくらいの線量なのです。ですから、基準値とか暫定基準値とかいろいろニュースに出てきますが、どうかパニックにはならず冷静な行動をとっていただきたいと思います。本当に危険なら政府自体が逃げて避難するはずです。福島県の産婦人科がニュースに出ていましたが、福島県在住の人の心配を考えたら東京人があまりにパニックになるのは恥ずかしい話です。
ですので、今東京に少しは基準値を上回るくらい放射性物質が来ているとしても、胎児に影響が出るような数値には程遠いですし、ですので、昆布やわかめやイソジンのうがい薬など全く必要ないです。
ちなみに過去の被爆者のいたましい経験から、原爆投下時広島、長崎在住だった10歳以下の子供の3分の1に白血病が発生したことや、チェルノブイリでは小児甲状腺がんの頻度が高くなったということは明らかなのですが、こういった心配をすべきなのは福島県在住の方や近くの宮城県で実際にそんな心配をしている余裕もない被災者の方々なのだと思います。

子供は心配、胎児は心配、ですが、くれぐれも正しい知識を理解して、正しく判断して行動する、ことを心がけてください。お願いします。
私も、それくらいの量は、毎日卵管造影で浴びてるぜ(もちろん鉛の防護衣を着けてはいますが、腕や頭は浴びてます)、と思いながらニュースを見ております。

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