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医学的根拠の正しさとは?

[2009.12.04]

前回の続きですが、医学的知識、医学的文献を調べた時に、その正しさをどう検証すればいいのでしょうか?

「人は自分に都合のいい情報に飛びつきやすい」と書きましたが、その情報が活字になっているから信じてしまうのでしょうか?それとも、医学博士が述べているから信じてしまうのでしょうか?

私も、ホームページ改訂のために医学的記述を見直していて、ある治療法を選択する場合の医学的根拠をいろいろ調べ直して、この問題に突き当たりました。EBM(根拠に基づく医療、エビデンスベースドメディスン)ということが盛んに言われ、それをたたき台にした診療ガイドラインというものも多くの疾患で発行されています。婦人科だけでも、更年期、産科、生殖医療、子宮内膜症、各種婦人科がん、骨粗しょう症、などたくさん発行されていて全て読むだけで大変です。

そして、それだけではなく、医学の発展の歴史から考えてもわかるように(ドラマ「仁」の時代から、医学は少しずつ経験を積み重ねて記述され発展してきた訳です)、過去に書かれた膨大な数の文献、論文があります。EBMでは、その論文を整理、再検討して、RCT(ランダマイズドコントロールスタディ)というもので差が出た場合に、一番証拠としての重みがあるというふうに位置付けしています。

しかし手術療法などでは、新しくて良さそうな方法が出た場合にそちらを選ばないというのは難しく、RCTというのが成り立ちにくいのです。例えば、流産や中絶などの子宮内容除去術では従来の方法と吸引による方法のRCTは存在しませんが、レトロスペクティブスタディと言って、割り付けをせずに違う時期に行ったケース同士を同じ数ずつくらい集めて比べるという試験の結果は、1970年頃のアメリカで報告されていて、吸引の方が子宮の筋肉層を傷つけにくいという結果で、アメリカでは吸引法の子宮内容除去術が今ではほとんどを占めています。この例のように、明らかにエビデンスとして認められていなくても、おそらく有効であろうという治療法も数多くあるのです。それを判断するには、過去の英語文献などの全てを「PubMed」というサイトなどで検索して検証しないといけません。

男女産み分けについても、あきらかなエビデンスとして認められているものは現段階では、ありません。アメリカで行われているマイクロソート法が最近では高い確率の報告を出していますし、理屈から言っても精子の選別が可能と思われますので、数が増えればエビデンスとしてのお墨付きを得ることにはなりそうです。

しかし、多層パーコールによる選別での人工授精については、女の子に関しては78.5%くらいの確率で産み分けられたとする報告もあれば、55%くらいしか選別できなかったとする報告もあり、とりあえず7割を信じてやるしかない、というのが現実なのです。ちなみに日本産婦人科学会もその有効性を認めてはいません。

そして、フェマーラなどの新しい薬に関しても有効性が明らかにエビデンスとして認められるまでには何年かかるかわかりません。とりあえず、数百例規模の報告をもとに採用するかどうかを決めるのは、その医師の判断にまかされることになる訳です。

そこで、新しい医療、新しい検査というのは、ある医師は薦めても他の医師は反対する、という状況が生じます。例をあげると、クロミフェンに反応しないPCO(多のう胞性卵巣)症候群の治療で、注射による排卵誘発や体外受精を最初に薦めるか、腹腔鏡による卵巣のドリリングという方法を薦めるか、あるいはその前にフェマーラという新しい内服薬を試すことを薦めるかは、医師の今までの経歴や師事した先輩医師の教えや読んだ文献の種類などによって、決まるのです。治療の好み、というのが厳然と存在します。

ですから、1人の医師でやっている当院のような、小さなクリニックでは、その辺は意志の統一というものが不要で方針は一人で決めるのですから単純明快ですが、複数の医師に診察してもらうことがありうる病院では、患者さんとしては、「どっちを信じればいいの?」「言ってることが違う」という疑問が生じ、インターネット検索に走る、という状況になるのです。

ですので、複数の医師にみてもらう病院では、単純に自分の好みでいいですから、自分で勝手に主治医はこの医師、重大な決定の時はこの医師に決めてもらう、というふうに決めておくといいと思います。(一人の医師が診るより、他人のチェック機構が働くからいい、ということもたくさんあります。その点私のような個人開業医はつねに視野を広く、と自分を戒めていないといけません)

EBM、根拠の説明は大切ですが、反対の立場にあるような個人的経験や直感に頼るような医療をNBM(ナラティブベイスドメディスン)といい、漢方医学の証の判断などはそちらに当たるのではないかと思います。しかし、漢方がとても効く方も実際にいらっしゃいますし、私がコツとして思っている「うっすらヒゲがはえている人は血液検査で、男性ホルモンが低くてもクロミフェンと併用してステロイドを使うと妊娠しやすい」というのも、結構当たるのです。ですので、インターネットで出てないから、とか、エビデンスがないから、ということで全て却下でもいけないような気がします。

EBMの集大成みたいなもので、コクランレビューというのがあり多くの文献がでています。日本語訳は一部だけで、不妊治療などの項目は英語を読まないといけません。あなたは、コクランレビューをすべて読み、PubMedを検索しまくって、医師と対抗する知識を身につけ自分で自分の治療を最終的に自分で決定し、執行だけ医師にまかすようにしたいですか?多分そんなことはないでしょう。

前回も書きましたが、良好なコミュニケーションがあるところではそんな不毛なことは起こらないはずです。しかしこれからは、インターネットで医学的なことを検索した場合、これはどの程度のエビデンスがあることなのだろう?まだ確立された治療法にはなっていないのかな?などという目で見るようにしてみて下さい。そうすることで、医師の思考過程を推測することができ、あなたの主治医がどんな性格か(新しいことを何でも取り入れたがる好奇心旺盛派か、確立されたガイドライン的なものしか受け付けない慎重派か、その中間か、あるいはあんまり勉強が好きじゃないか??)を、すこし垣間見ることができるかもしれません。

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