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インターネット時代の医師とのつきあい方

[2009.12.01]

最近、「インターネットではこう書いてあったんですけど、どうなんですか?」という質問をよく耳にします。もちろん、当院に受診される方の半分近くがホームページを見ての受診という時代ですから、当然といえば当然のことですが・・・。なかには、インターネットで良くないことが書いてある薬を出されたから、こんなところには来たくない、というような感じで転院して行かれた方もありました。あふれる情報の洪水の中で、いかにそれを取捨選択していくのか、どう利用するのか、今日は考えてみたいと思います。

専門性が高く、素人にはわかりにくい、という点で、私がよく例に出すのは「家を建てる」こととの比較です。一生に一度の高い買い物ですから、一生懸命インターネットや一般人向けの入門書を買って勉強します。そして、いろんなメーカーや工務店を回って質問して比べます。いろいろな工法や断熱材の使い方、気密性など、ちょっとしたプチ専門家ができあがり、質問攻めで業者の矛盾をついたりして、あそこは手抜き工事をしそうだ、とか、なんとか言って徐々に候補が絞られてきます。

しかし、おそらく、この時点で「答えはすでに自分の中にある」ことがほとんどなのです。何に価値を置くのか自分の心の声に耳を傾けるとわかるはずです。(私の場合は自然素材、ということに惹かれていましたが)あとは、それぞれの担当者の方の態度が誠実そうかどうか、などの心理的な印象でほぼ決まっていくのです。(しかし考えてみればいくら素人が一生懸命基礎工事を見たって、プロがばれないように手抜きをしようと思えばいくらでも出来るはず・・・、です)

医療に関しても、不妊治療をしていてつくづく思うのは、みなさん「答えは自分の中にある」ということです。体外受精にすんなり行けばすぐできるのに、と、こちらが思っても、それだけはイヤという方もありますし、出来るのなら何でもしようという方の方が少なく(もちろんそれが人情なのはわかりますが)ここまでなら、という一線を持っている方は大変多いものです。その傾向が強まって極端に走ると、極論すれば医者はいらない、ということになってしまいかねません。自分のやりたいように決めて、それをハイハイと実行してくれる医師を探す、ということになりかねません。

医師からの提案が自分の思い描いていた道と違った場合でも、聞く耳を持たなくてはいけない、と思います。やはり、専門家からのアドバイスなのですから。エビデンス(証拠)というものが重視される医学医療の分野ですが、やはり個人の経験からくる直感みたいなものも、個々の患者さんに相対した時には、とても重要なものなのです。

もちろん最後に決めるのは自分ですので、その時の参考としてインターネットで調べるのは、良いでしょう。しかし、情報の偏りをどう判断するのか、誰がいつ発信した情報なのか、決めている自分は本当に冷静で客観的か?などの問題が存在します。

人は、自分に都合のいい情報のみを取捨選択してしまいやすいものです。また、情報の洪水におぼれやすい方は、だいたい結果が思うように出ずにあせって検索しまくっている方や、不安の強い方に多いですから、そうした方は、「悩むよりまず行動を」と思います。100日インターネットで検索して頭でっかちになるより、1回受診して検査や説明を受けて行動した方が10歩も100歩も前進です。

例をあげて恐縮ですが、以前人工授精でなかなかうまくいかなかった方が、原因不明不妊で検索されたのかどうか(それだけでも何万件もヒットします)わかりませんが、体外受精をしてもなかなか着床しない方がやるような特殊な検査を受けに、他院に行かれたことがありました。その検査は実際どこでもやっているような検査ではなく、医学的水準から言ってもまだ、学会でたまに発表されるようなレベルの検査でしたが、その方の心の琴線に触れてしまったのです。

あと、最近の例では、卵管造影を麻酔してやってほしいという方が、インターネットでは「医師が麻酔してやるほうが危ないと言っていた」みたいなことが書いてあったんですがどうでしょうか?と聞いてこられました。これは考え方にもよりますが、いざ万が一というアレルギー性ショックがおこった場合に困るのは、血圧が下がって点滴ができないため薬がすぐ使えないことなのですが、麻酔するということは点滴も最初からしていて、持続で血圧や心電図のモニターもしている状態(当院では)ですので、よほどその方が急変時には安全か、と思うのです。

医師同士の議論であれば、そういう意見もありますね、そういう考え方や説もありますね、と、相対的に相手の考えを認め合う建設的な議論に発展しやすいのですが、一般の方は白黒がはっきりしすぎて、自分の認めがたい立場の話はばっさり切り捨ててしまうおそれもあると思います。

では、その、インターネットで検索して確認してしまうという状況がなぜ起きるか、というと、ほとんどの場合が医師とのコミュニケーション不足です。先生はこう言っていたけど、わからない、説明があまりなかった、あるいは本当に信じていいのか?など、結局、診察室の場で疑問が解消されていない人がインターネットにはまっていくのだと思われます。

当院でもメール相談をしており、基本的に受診前の方か受診中の方の質問などにお答えしているのですが、全くの遠方などから、わらをもすがるような相談メールが来たりします。そして、そのたびに思うのです。「なぜ主治医に聞かないの?」と。忙しい病院なのか、コミュニケーションのとれないドクターなのか、あるいはその方がその医師を信じられないのか、状況はいろいろだと思いますが、信じられないなら医師を代えればいいと思います。

インターネットで検索して素人さん同士の知識の分け合いみたいので聞き(見)かじるより、病院はいっぱいあるのですから、他院の門をたたけばいいでしょう。しかし、医師に質問もしていないのに、インターネットで活字になっている知識の方を、はなから信じてしまってはいけません。質問して答えてくれなければそこで転院を考えればどうでしょうか?インターネットは、そのために、自分の知識を整理し簡潔に要領よく質問するために使ってほしいと思います。別に「ネットにこう出てて」なんて言わなくて結構です。そんなこと言われなくても、ある程度知識を持っている方だといろいろ検索してしらべているな、といのはわかりますから。それよりは、忙しそうな医師の隙をついて、しっかり簡潔に疑問点を聞いてください。その場で疑問が解消されないとまたフラストレーションが溜まり、ネットの洪水にはまることになります。

まとめると、

  1. インターネットはあくまで参考に、スタンダードな手順は全国どこでもそれほど違わない。
  2. 思うような結果が出ない場合は特にネットサーフィンしすぎない。まだ、医師を変えてセカンドオピニオンを求めて外に出たほうがいい。
  3. 医療も最後は人対人のアナログなもの、誠実な態度や印象などの直感を信じるべし。
  4. 答えは自分の中にある。その声に耳を傾けること。しかし、人の話(特に耳に痛いことは)もよく聞くこと。
  5. 医師には、簡潔に上手に質問しよう。そのために勉強をするツールとしてインターネットを活用。良好なコミュニケーションのあるところでは、インターネット難民は出現しない。検索しまくる原因は、質問できないフラストレーションにあり。

とりとめない話ですが、すべての方が情報の洪水におぼれることなく、順調に治療がすすむことを祈ります。

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