人工妊娠中絶について
人工妊娠中絶は、実は婦人科で最も多い手術で、産婦人科医が一番最初にならう手術でもあるのですが、みな一様に「怖い」といいます。実るほど頭を垂れる稲穂かな、ではないですが、ベテランのドクターになるほど怖さを知っています。妊娠した子宮はとても柔らかく、気を付けて細心の注意を払っていても穴があいてしまうことがあるからです。私たち後輩医師も、徒弟制度みたいなものですから、耳にタコができるくらいそれを聞かされてきています。
予防方法に特別なこと、というのはないのですが、やはり、ゆっくり急がずにやること、そして、最近は当院でもやっているように、手術中にお腹からエコーを当てて見ながら手術する、というような工夫もなされています。
その他に中絶手術をされる方が心配されることで多いのは、妊娠できなくなる(不妊になる)のではないか、という心配です。心配しすぎても仕方ないのですが、これについては、まれですがあり得ることなのです。手術を何回もされているような方で、普通なら再生してくる子宮内膜が根こそぎ削り取られていて、子宮内膜が妊娠可能な厚さに育たない場合があります。これの予防には、掻き出しすぎない、取りすぎないことの重要性が言われています。一度内膜が根こそぎなくなってしまうと再生は不可能で、それは不可逆的変化ですので、掻かないことしか方法がないのです。
最近は流産の手術でも、自然待機療法と言って、自然に排出されるのを待つ場合があり、それでも80%くらいの人は手術なしできれいに全部出てしまいますので、中絶の場合でも、あとで多少出血がダラダラ続いても、多少残ったものはそのうち自然に出る場合がほとんどです。ですから、その時出血がすぐきれいにならなかったから、「残した、ヤブ医者だ」というのではなく、将来のあるあなたを思って「あえて残した」という場合もありうると思ってほしいものです。
初期のうちなら、子宮内膜を傷付けにくい吸引のみによる方法がおすすめです。(9週を過ぎると、逆に出血が多くなり危険ですので、普通に摘出したのち吸引で仕上げることになります)
これ以外にも、今まで私が見てきた方の中であったのは、やはり何回も手術をして、そのたびに子宮口を無理やり拡げますから「拡がるクセ」が付いてしまったようで、いざ産みたくなった時に、子宮頸管無力症という状態になってしまって、胎児がある程度の大きさになってから急に子宮口が開いて胎児が出てきてしまい流産になってしまった、という方がいらっしゃいました。こういう場合は、次から妊娠初期に子宮口を開かないように縛る手術が必要になってしまいます。
いずれにしても、何回も手術をすることは、今まで書いたようなことが起こる可能性を増やすことになりますから、もしどうしても産めない事情がある方は、本当に欲しくなった時悔やまないように、ピルを飲まれることを是非おすすめしておきます。
誰一人として、喜んで中絶手術を受ける方はいらっしゃらないのですから、長い目でみて、今後の避妊についても遠慮せず相談してほしいと思っています。